なにこの既視感

「好きな人ができてしまった。」を読んで不思議な気持ちになった。
ここ数日になって、何故突然、個人的な内容をブログに書き出し始めたのか、
実は自分でもよく分からなくなっていた。
しかし、この増田のダイヤリーを読んで、ようやく合点がいった。


僕は怒っていたのだ。
裏切りを。
僕は悲しかったんだ。
心変わりを。
僕は戸惑っていたんだ。
状況の変化を。
僕は愛していたんだ。
それでもなお。




僕はこの増田と全く反対の立場でフラれた。
別れる一ヶ月前に結婚話を彼女からもちかけてきたのは、
別の人を好きなった気持ちを抑えるためだったと今は邪推している。


遠距離だったが、毎日連絡を欠かすことがなかった。
お互いにとって、これまでに恋愛で悩んできたことが馬鹿馬鹿しくなるくらい相性がよかった。
全てが完璧に思えた。


ある日、僕は会社で精神的に辛い出来事があった。
しかし、いつもそうしているように、そういうときにこそ、
彼女の話を訊いて、彼女に必要とされ、
僕もまた彼女を必要としていることを分かち合おうとした。


その日、彼女とは電話が通じることはなかった。
それまでの10ヶ月間、一度もそんなことはなかった。
今にして思えば、僕の不眠症は、あの夜から始まったのかもしれない。


それから一週間が過ぎ、彼女から
「あとで話したいことがあるから、ゆっくりできる時間になったら電話して」
と電話があった。
帰宅途中だったが、感の働いた僕は、できる限りおどけた声で、
「ん?それって別れ話とかでしょw」とカマをかけたら、
彼女は短く「そうなの」と答えた。


「僕が気付かないとでも思った?愚かだなw 分かったよ。そうしよう」
びっくりするほど、平静な気持ちで僕は別れ話にあっさりと応じた。
その後たくさん話したのだが、何故か思い出せない。
覚えているのは、
「・・・やっぱりあなたのほうが私をたくさん愛してた・・・」
と彼女が泣き出したことだけだ。


つきあっている間は彼女が2ヶ月に1度位の割合で飛行機でこっちに遊びに来てくれた。
逢っているときは、電話のときと変わらず、元気いっぱいの笑顔をふりまいてくれるが、
帰りのフライトでは
「隣の席の人に『大丈夫ですか?ロビーでの様子見てましたよ。遠距離大変ですね』
とか言われてハンカチ差し出された」りしていたらしい。

逢ひみての 後の心に くらぶれば 昔はものを 思はざりけり *1

幸せなことだが、僕のほうがたくさん愛していたとは到底思えないほど、深く愛されていたと思う。


だから、考えも及ばなかった。
まさか、彼女が僕以外の人を好きになるなんて。
遠距離恋愛の脆さを軽んじていた。


たとえ今は別れても、きっと彼女は
「やっぱりあなたがいなきゃだめみたい」
などとすぐに電話かけてくるにちがいない。
そんなふうにさえ思っていた。


別れてから、はじめて僕は彼女のmixiのページを訪問した。
(二人ともスクリーンジャンキーだったから、
つきあっている間はせめてどこかでプライベート空間をもったほうがいいだろう
という僕の信念から、あえて控えていた。)


毎日電話をすることはなくなったものの、
mixiでのやりとりが始まった。
二人で管理した交換日記代わりのブログにも、
僕は変わらず投稿し続けた。


遠距離恋愛の怖さはここにある。
その関係が終わっても、実生活はなんら変わらない。
だから、別れた実感が沸かないのだ。


別れて半年が過ぎた頃、その出来事は不意に訪れた。
彼女がmixiの日記に書いた短歌に聞き覚えがあって、習慣で脊髄反射的にググッてみた。
そこでヒットした最初のサイトは、彼女の名前の一部がついたサイト名だった。


文学的でリリシズム溢れるその文章を読んで
すぐに、彼女のブログだと分かった。
「いつの間に・・・」
夢中になって過去記事を読み漁って・・・


見つけてしまった。
あの電話が繋がらなかったあの日、
彼女がどうしていたのかを。


そして、その後、僕とその人とどう決着をつけるかを迷い、苦しみ、
結局、自分の気持ちを貫き、僕を捨ててまで、不倫に向かう彼女の心の内を。


たとえそれが道に外れていようとも、自分の気持ちに正直に生きる。
それはまさに彼女らしい姿であり、また、そういうところが好きだった。
別れた後に、他の誰かと幸せになることはかまわない。むしろ願っていた。
しかし、相手が既婚者となれば話は別だ。


僕は、結局、その相手の男性を恨むことこそあれ、
彼女を恨むことはできず、
まだつきあっている間に裏切られたという事実を受け入れることもできないまま、
その後の長い長い期間、
苦々しさや遣る瀬無さ、空しさと愛しさに潰されそうだった。


僕は怒っていたのだ。
裏切りを。
僕は悲しかったんだ。
心変わりを。
僕は戸惑っていたんだ。
状況の変化を。
僕は愛していたんだ。
それでもなお。



僕と僕の心との格闘は、
これから始まったばかりなのかもしれない。


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*1:百人一首43番。「あなたを抱きしめることができればこの苦しみも消えるだろうと思っていましたが、あなたをこの手で抱きしめてから愛の苦しみはつのるばかりです。思いをとげるまでの苦しみは何も思わなかったのと同じです」