からっぽの部屋

変わらないこと。
畢竟は、そこに自分の弱さと強さを見出すことになる。
追憶の内に永遠を冷凍保存しようと、
無理を承知で、変わらないという奇跡を探している。
変わらない想いを託した歌を聴きながら。


<朝>

「もしもし。出発までの時間に聞いてほしい曲があるんだけど」
「どうしたの?」
「いいからCDの棚を見てよ。
大切なものほど右側に並べているんだけれど」
「そんなの初めて聞いたわよ」
「まあまあ。一番右側を見ると、ビリー・ジョエル佐野元春があるでしょ?」
「どこどこ?うん、あった」
「どちらも3曲目を聴いて欲しいんだけど。特に歌詞をね」
「あなたはいつも詞が重要なのよね」
「そう。あなたなら気付くと思うけど、
その2曲は曲調も歌詞も共通点があるんだ」
「なに?私へのメッセージ?」
「そんなんじゃないよ、ばーか」
「ふーんw。まあ聴いてみるね」
「お。じゃ」
「いってらっしゃい」
「またね」

I need to know that you will always be
The same old someone that I knew
What will it take till you believe in me
The way that I believe in you.


I said I love you and that's forever
And this I promise from the heart
I could not love you any better
I love you just the way you are.


Billy Joel「Just The Way You Are」

時々二人は 感じ方のちがいで
夕べのように 沈んでしまうけれど
愛してる気持は いつも変わらない


ほほえみのかげりを 輝きに変えて
つまらぬ想いは 気づかれぬように
雨にでも そっと流しておくれ

時々二人は 言葉が足りなくて
確かなものを 失いそうになるけど
愛してる気持は いつも変わらない

時々二人は 考え方のちがいで
気まずく 別れてしまうけれど
愛してる気持は いつも変わらない


佐野元春「バルセロナの夜」


<夜>


玄関に灯りが点いていないのはやっぱり寂しい。
部屋の照明をつければ、外の雪景色は消え去る。
"ランプを点せば街は沈み 窓には部屋が写る"という
フレーズ*1を思い出す。

やけに片付いた空っぽのリビングのテーブルには
2つの歌詞カードが広げてあった。
そして置手紙
「3週間ありがとう!
 2つのlove songも・・・」

ソファにも置手紙
「くまが私の代わりに
 あなたの隣に座ってくれているの!」

味噌汁の匂いのしないいつもの暮らしに戻ったことを
静かに受け入れるように、
動物園で二人で選んだぬいぐるみを抱き上げ
「ただいま」のキスをした。


「私がいないと寂しいでしょ?」
「多少」
「あなたの言う『多少』は『とっても』って意味でしょ」
「うっせーよ」
「w」




翌朝に聴いたのはもちろんこの曲

新しい朝
白い息と黒く濡れた瞳さまよう
「もう行かなくちゃ」と
精一杯前向きな笑顔で送り出そう


側に居るだけじゃ見えないもの
離れていてもわかり合えること
同じ月 同じ空の下で待っているわ
Thinking of you


新しい夜
太陽が昇る前に電話して
「君のこと考えていたよ」
そう言って温めてこの闇が溶けるよう


Bonnie Pink 「Thinking Of You」

*1:荒井由美「翳りゆく部屋」