どこにも居場所がないなんてよくある話

脚本を担当するのが「大奥」「純情きらり」「ラブジェネレーション」の浅野妙子というので
ラスト・フレンズ」を観たのだが、途中で憂鬱になった。
どこにも自分の居場所が無い。
自宅にも、恋人のもとでも。
実家にいる頃、同じように感じていたことを思い出したのだ。

創作は一切含んでいない。以下は全て事実だ。俺は小さい頃に親から押入れの下の段に押し込められて育てられて、便所であれ飯であれ少しでも俺が外に出るような素振りを見せると、親は俺が動かなくなるまで、嘔吐しようが骨折しようが暴行を加え続けた。これが物心付いた頃から中学まで続いていた。


「amachang(天野)のような人間から殺される - ぼく最速戦記君劇場@自宅の日記 Not Found - 技術日記」


こういうのはままあると思う。僕には平和な家庭よりよっぽどリアルだ。
ドラマの主人公、美知留のケースでいえば、今のところそういうシーンはないが、
母親の恋人(?)である見知らぬ男にレイプされる話なんて現実には珍しくもない。
これまでいったいどれだけの女性からそういう体験を聞かされてきただろう。


高校生の頃、居場所の無い僕は近所にあるゲームセンターが併設されたボーリングセンターによく行った。
お金なんてなかったから、そこでなにかをするわけでもなく、
ただ、そこにいけば、同じように居場所の無いティ−ンエイジャーがたむろしてたり、
カップルや家族連れが楽しそうにしているのを一人でぼんやり眺めていた。
なにひとついいことなんてなくても、家にいるよりずっとましだった。
母が見知らぬ男といるとか、
父が保証人になって騙されて借金作って鬱で長期入院しているとか、
そんな現実から目を背けられれば、それでよかった。


ある日、二人組の女性から声を掛けられた。
そのうちの一人が僕に一目惚れをしたというのだが、
父親にレイプされ不感症になり、何人もの男と寝るようになったその女性はきっと、
僕の目の中に同じ孤独を感じ取ったのだろう。
家にいると父に暴力されるというので、数週間家に泊めたが、
些細なことで喧嘩になり、それきりとなった。
必要とされることになれていなかったから、
冷たく突き放すことがどういうことかも分かっていなかった。
数年後に一度だけ電話をくれて、
「あれから他のひとと何人もつきあってたけど、inmymemory君が忘れられないよ」
と言われ、中途半端な優しさがどれほど酷いことか思い知った。


僕が何年も大好きでしかたなかったある女性は、
他の親しい友人にも話していない秘密を僕にチャットで告白してくれた。
両親が離婚して何年も父に逢っていなかったが、
彼女の中で父はヒーローだった。
数年ぶりに父親と再会し、一緒に宿泊したホテルで
酔った父親にレイプされた。*1
「父があのことをずっと気にしてるのが、嫌だったの」
彼女にとって、信頼できる男性像が崩壊されたことがなにより辛かったのだろう。


「小学生の頃にはね、近所の何歳も年上の男性に懇願されて性的なおもちゃにされたの」
唐突に彼女は更に過去の体験を書き始めた。
「約束して待ち合わせて、その男性の家に行って・・・。
断ると悲しそうな顔をするの。だから、なんか断れなくて、
何度もそれにつきあったの。
なにをされたのか、思い出そうとしても、どうしても思い出せなくて・・・。
でも、それがいやらしいことだって後になって意味を知ったときから、
わたし、そういうのに拒否反応するようになったの。」
彼女が書く内容に戸惑ってばかりの僕にはどう反応してよいのか
皆目検討がつかなかった。
「素敵なことだと思うの。好きな人と肌を触れ合ったり、キスをしたり・・・。
でも、わたしにはどうしてもそれができない。
だから、いつも、つきあう人には、申し訳ないなって思うの。」


「そんなのなくたっていいから、僕とつきあってほしい」なんて軽々しく言えるはずもない。
僕には彼女は永遠に絶対不可侵の神聖な存在になるしかなかった。


他にも、そういう類の話を告白してくれる女性がたくさんいたが、
僕の心にある絶望と孤独を感じ取ってくれたから、
「わかってくれそうだから」と期待して話してくれるのだろうか。
訊いたところで「ただ、なんとなくよ」と返ってくるだけだろうけれど。
いずれにせよ、「オランダの都市にスケベニンゲン(Scheveningen)ってあるけど、
あなたはスケベソノモノニンゲンだよね」と言われる今では遠い過去だ。


人生は孤独なものだと強がっている人にとって、
思いがけない優しさに触れるのは、
とても驚くべきことだ。
ラスト・フレンズ」では再会した友人、瑠可の住むシェアハウスの温かさに囲まれることになるが、
僕も同じように、希望を失くして生きていたときに、心ある友人の優しさに救われたものだった。
ラストシーンで、宇多田ヒカルの「Prisoner Of Love」が流れた途端、涙が溢れ出した。
そうか。
僕は泣きたかったんだ。


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*1:実際には未遂に終わったようだが