くらもちふさこをこれから初めて読む人におすすめの作品ベスト15

NHK朝ドラ『半分、青い。』が終わってしまった。ヒロイン・楡野鈴愛が弟子入りする憧れの漫画家・秋風羽織の作品として、くらもちふさこ作品が実名で登場して驚いた半年前が懐かしい。くらもちふさこといえば、1972年にデビューして以来、それまでの少女マンガにありがちな上流階級ものや歴史ロマン、スポ根、オカルト趣味、SFファンタジー等の非現実設定による夢物語ではなく、現実味溢れる日常生活を舞台とし、等身大の登場人物の心象風景を台詞以上に卓越した描写表現で描き、ポスト24年組ともひと味違うジャンルを築き上げた。連続した動きによって表現するアニメとの決定的な違いである技法「コマ割り」による視線誘導やリズム感が作り出す「タテ27cm×ヨコ18cm」の限られた空間世界は、アニメや映画よりも、むしろ音楽に近い感覚で展開されている。こうした独特な表現やストーリー構成は常に革新され、洗練さを増し、くらもちふさこは『別冊マーガレット』の看板作家となっていった。少女漫画史に残る名作を数多く発表し、後進作家に大きな影響を与えた珠玉の名作揃いの作品群の中でも、今回はビギナーにも特にお勧めできる15作品を選んでみた。

15位『白いアイドル』1975年  握手会が当たり前の地下アイドルなど存在しない、アイドルが雲の上だった時代に、アイドルが抱えた苦悩とピュアな恋。表題作他、貴重な初期作品集。

14位『わずか1小節のラララ』1978年 短編シリーズもの。ロックバンドの友情と淡い恋。13位『A-Girl』1984年モデルと彼に振り回される姉妹。『半分、青い。』ではユーコ(清野菜名)へ漫画の生原稿をプレゼントされた。12位『いろはにこんぺいと』1982年 幼馴染への恋心は天邪鬼な態度のせいで進展せず、高校生活に突入し…。切ない恋の心情を繊細に描いている。11位『チープスリル』1990年 連載を中断するほど精神的に追い詰められた中で書かれた力作。三者三様の恋模様を丁寧に描き分けた。10位『アンコールが3回』1985年人気歌手とマネージャーの極秘婚。ツンデレものの極北。9位『糸のきらめき』1977年 音楽という共通項でしか結ばれない切ない想いを歌に乗せ…。同時収録の『一枚の年輪』も隠れた傑作短編。8位『ハリウッド・ゲーム』1981年 恋とは落ちるもの。愛とは互いに育むもの。kindleでも取扱いが無いのが不思議。7位『駅から5分』2005年 駒込が舞台。伏線回収が素晴らしい、オムニバス形式の連作。6位『海の天辺』1988年 初恋の相手はモテ教師。ありがち設定でも繊細に描けばこうも違う。『半分、青い。』ではボクテ(志尊淳)へ漫画の生原稿をプレゼントされた。5位『天然コケッコー』1994年 山と海に囲まれた田舎が舞台。東京から来た転校生との恋。『別マ』から『コーラス』に舞台を移し心機一転、作風をガラッと変えた意欲作。結果、新たなファンも掴み、講談社マンガ賞受賞。映画化もされた。
天然コケッコー (1) (集英社文庫―コミック版)

天然コケッコー (1) (集英社文庫―コミック版)

4位『花に染む』2010年 手塚治虫文化賞受賞。トラウマを抱えた弓道の名手と彼を取り巻く女性たち。小説にはできない描写により、それぞれの思いを巧みに表現。全8巻一気読み必至。
花に染む 1 (クイーンズコミックス)

花に染む 1 (クイーンズコミックス)

3位『おしゃべり階段』1978年 悩んだ日々は決して無駄にはならない!悩めるティーンのバイブルとなった三角関係もの。2位 『いつもポケットにショパン』1980年忘れ得ぬ名シーンが多い初期の代表作。家族、友情、恋を通した心の成長譚。『半分、青い。』ではヒロインが漫画家を目指す切欠となった。
いつもポケットにショパン (1) (集英社文庫―コミック版)

いつもポケットにショパン (1) (集英社文庫―コミック版)

1位『東京のカサノバ』1983年 イケメンの兄とブラコンの妹。ところが実の兄ではないとある日判明し…。キャッチフレーズは「ハイセンスな、シティ感覚100%のラブ・ストーリー」といかにもなんクリ世代だが、決して色褪せない恋愛漫画史上最高傑作と言い切っていい。
東京のカサノバ 1 (集英社文庫(コミック版))

東京のカサノバ 1 (集英社文庫(コミック版))

次点『Kiss+πr2』1986年 繊細で影のある男の子が主人公という点が魅力。もっと注目されるべき隠れた良品。

『くらもち本 くらもちふさこ公式アンソロジーコミック』2018年 椎名軽穂河原和音聖千秋等豪華作家陣によるトリビュート作品集。

『くらもちふさこ デビュー45周年記念 ときめきの最前線 』文藝別冊ムック』 2017年 単行本未収録作掲載。萩尾望都/槇村さとる/いくえみ綾等も寄稿。

今回記事を書くにあたり、所持していなかった旧作を探したが、初期の名作のほとんどがコミックとしては売り切れ状態でkindleのみ入手可。古書コレクターとしては考えたくもないことだが、いっそのことマンガモデルのkindleを買ったほうが得な気もしてきた。