百種の言

あなたと別れてからこれまでの間、自分の感情と向き合い、身の振り方を追究してきた。


“どうすべきか”ということは分かっている。
問題は“どうしたいか”だ。


         その答えには、疾っくに気づいている。
         自分の心は決まっている。




僕があなたの心を盗んだのは、まさに畢生の大業と呼ぶに相応しい、ウルトラCの奇跡だったね。


“もう誰も愛すまい”とあれほどまでに固く閉ざしていたその心を、まるで飢えた猛禽がヒヨコを仕留めるように僕はまんまと奪い取った。


それがあまりにも首尾よくできたものだから、どこかで僕は慢心していたのだろう。


僕があなたをこんなに愛しているのだから、あなたも同じに違いない。つきあってからはいつも、その確信があった。


相手を信頼すること自体は良いことだが、いつしか初心を忘れてしまった僕は、あなたを愛するだけで満足してしまい、(大きな意味で)守る意識が欠けてしまっていた。


相手が何を思い、考えるかなんて、僕が制御できるものでもないし、またそうすべきではない。


相手に期待することと、自分の理想を押し付けることを混同してはいけない。
相手の心境や状況をよく見極め、更に広い視野と心で英断し、どんな時でも相手を守り抜く。そのためになにができるかを常に考える。


他にも反省点はあるが、今になってそうしたところで、あなたに充分にしてあげられなかった過去も、あなたの心を取り戻すこともできないという現実を受け入れること。


それこそが、“どうすべきか”の答え。
それを見て見ぬ振りをしても、仕方がない。
それでも、“どうしたいか”について決められるのは、紛れもない、自分自身。


         その答えには、疾っくに気づいている。
         自分の心は決まっている。




それは、あなたが僕を好きになる直前まで抱いていたものと同じ。
“もう誰も愛すまい”と誰からも固く閉ざすこと。
これが、数日前に出した、僕の答え。
僕があなたを抜け出させたそこへ、今度は僕が行くことにしたよ。


かつてあなたの部屋だった場所は、あなたがかつてここに来たこともあった、という記憶だけを残し、廃墟にされたバビロンのように、今もまだ、家具ひとつないままだ。


閉めることの無いカーテンが、真冬のヨーロッパの落葉樹の下で落ち葉に埋もれながら俯きながら咲くクリスマスローズのように、寂しげにカーテンレールにかかっているだけ。


春になったら、部屋の窓を空け、風に乗って舞い込んできた桜の花びらを便箋いっぱいに詰め、あなたに贈ろう。


伝え切れない言葉と思いの代わりに、桜の花びらを便箋いっぱいに詰め、あなたの元に届けよう。




以上、万葉集8/1456〜1457の藤原広嗣と娘子の贈答歌と、山崎まさよし「One more time, One more chance 秒速5センチメートル Special Edition」のPVと、Ray Charles レイ・チャールズ「I can't stop loving you 愛さずにはいられない」本歌取り


※2007/07/10 03:28初出