文学と音楽の蜜月時代(或いは妹との想い出)

「それにしてもお兄ちゃんって全く年をとらないよね。ドリアン・グレイ?(笑)」

誕生日を迎えるたびに思い出す、妹からのメール。
妹といっても、実の妹はいない。 *1
しかしある意味では実の妹以上の親しさをもって接してきた。


「いつか、お兄ちゃんが誰かのものになってしまって、今のように話せなくなるのは寂しいな」
結婚しても変わらないでいられるのが兄妹なんだから心配することないだろって言ったけど、
結局は妹が先に結婚をして、連絡をとりあうこともなくなって数年が過ぎた。
残されたのは、幾つかの言葉と、くまのぬいぐるみ。


「これ、もらってほしいの」
「なに?」
「これはね、私が辛いとき、いつも慰めてもらってきたの」
「そうなんだ」
「いつもこうしてね、頭を撫でていると、落ち着いたの」
「うん」
「だからね、これ、あげるね」
「そんな大切なもの、もらえないよ」
「お兄ちゃんに持っていて欲しいの」
「でも・・・」

なにが原因かは忘れたが、ひどく落ち込んでいたときのことだった。
あれは結婚をしてしまう妹の、残された兄への気遣いだったのかもしれない。


妹のくまはすぐにちょうどよい大きさの空き缶にしまい、
その日以来、触ることなく、密閉したままにしてある。
妹がしていたように頭を撫でることがもったいなくてできなかった。


「ドリアン・グレイの肖像」
敬愛する頽廃の象徴、デヴィッド・ボウイの愛読書である、
オスカー・ワイルドによるこの傑作小説は僕も大好きだったから、
ドリアン・グレイに例えられるのは、
生涯で最も印象的で嬉しい賛辞の言葉だと今でも思っている。

ドリアン・グレイの肖像 (光文社古典新訳文庫)

ドリアン・グレイの肖像 (光文社古典新訳文庫)


かのモリッシーが書く詞の世界観もオスカー・ワイルドからの影響が多々見受けられる。
洋楽アーティストに影響を与えた作家、または作家に影響を与えた洋楽アーティストを
紹介したフリーペーパー「読んで聴きたい洋楽 55選」にはそのような、
文学と音楽の蜜月を紹介していて興味深い内容だった。
そこでは、モリッシーとワイルドのエッジな攻撃性ではなく、
悲しいまでの優しさという共通項を感じさせる、という切り口で、
ザ・スミス「ザ・クイーン・イズ・デッド」とワイルド「幸福な王子」を組み合わせて紹介している。

幸福な王子―ワイルド童話全集 (新潮文庫)

幸福な王子―ワイルド童話全集 (新潮文庫)


他にも、共感できた組み合わせを以下に転記*2


ジェームズ・テイラー「スウィート・ベイビー・ジェイムス」

スウィート・ベイビー・ジェイムス

スウィート・ベイビー・ジェイムス

リチャード・ブローティガン「愛のゆくえ」
愛のゆくえ (ハヤカワepi文庫)

愛のゆくえ (ハヤカワepi文庫)

シンプルで親しみやすいメロディーで美しい物語を紡ぐテイラー
平易な言葉で美しい物語を作り出すブローティガン
ささやかな優しさとため息。
控えめながらも根強い良心的なファンを持つ両者の作品たち。



ビーチ・ボーイズ「ペット・サウンズ」

ペット・サウンズ40thアニヴァーサリー・エディション(デラックス・パッケージ)(DVD付)

ペット・サウンズ40thアニヴァーサリー・エディション(デラックス・パッケージ)(DVD付)

ボリス・ヴィアン「うたかたの日々」
うたかたの日々 (ハヤカワepi文庫)

うたかたの日々 (ハヤカワepi文庫)

ボーイ・ミーツ・ガールの輝き。
儚い青春の日々。自らを蝕んでいく悲痛。
古典として後世に名を残す普遍性。
個性は違えども両者共に強固な意志で作り上げられた孤独な夢物語。
祈りのようなもの。



イーグルスホテル・カリフォルニア

ホテル・カリフォルニア

ホテル・カリフォルニア

スコット・フィッツジェラルドグレート・ギャツビー
グレート・ギャツビー (村上春樹翻訳ライブラリー)

グレート・ギャツビー (村上春樹翻訳ライブラリー)

青年期の終わりというか、無邪気な夢が幻想であったと気付いた後の
黄昏感のようなものをこの両者には感じる。



エヴリシング・バット・ザ・ガール「エデン」

アラン・シリトー「長距離走者の孤独」
長距離走者の孤独 (新潮文庫)

長距離走者の孤独 (新潮文庫)

EBTGの洗練された美しい音楽の裏側には権威への怒りと世界への悲しみがある。
労働者階級の怒れる若者が描いたイギリス版「ライ麦畑でつかまえて



ディーヴォ「頽廃的美学論」

Q: Are We Not Men? We Are Devo

Q: Are We Not Men? We Are Devo

高橋源一郎「さようなら、ギャングたち」
さようなら、ギャングたち (講談社文芸文庫)

さようなら、ギャングたち (講談社文芸文庫)

ラディカルに既存構造を解体し再構築する手法は80年代的だが、今でも過激で刺激的な
ポップ文学の最高峰は、「サティスファクション」をバラバラの解体して驚愕のカバーを
聴かせたディーヴォの作風と共通点が多い。



ジョニ・ミッチェル「ブルー」

ブルー

ブルー

向田邦子「父の詫び状」
父の詫び状 <新装版> (文春文庫)

父の詫び状 <新装版> (文春文庫)

人情の機微や、心の奥底に潜む業による感情の揺れを
女性らしく描かせたら当代一のストーリーテラー同士。

*1:余談だが、家族構成の話題になった際、これまで尋ねた全員が「妹いるでしょ?」と断言され続けている。欲しいと思い続けているのは間違いないのだが

*2:一部編集・改変した