通じ合う心

母がラジオが好きで、いつも歌謡曲を聴いて育った僕は、
今でも時々、ふと懐メロが頭をよぎる。
(今朝は「私のハートはストップモーション」だった。)
 
6年前のあの日、起きてすぐに頭に流れ出したのは、
セーラー服と機関銃」だった。会社の元同僚に恋心を抱いていた僕は、
気の合う親友という居心地のよさから動かない関係に
空しさを覚えていた。
 
その日もいつものように食事とカフェの後は、
朝までカラオケをしていた。
 
別れた男を忘れられない女と、
忘れさせようと必死になっている男。
あの頃の僕には、それは屈辱にしか思えなかった。
女は愛情を、男は尊敬されることを求める、というけれど、
十分すぎるほど、彼女からは尊敬されてきたが、
欲しかったのは、「あなたが好き」という言葉だけだった。
 
だから、あの日、僕は終わりにした。
 
ただ、ひとこと、「もうやめよう、僕たち」
そう言っただけで、彼女は全てを理解した。
 
漂う空気は寂しさで満ちているのに、二人とも泣かなかった。
(ほんとうに終わりになる実感がなかったせいかもしれないが)
つまり、そういう関係なのだ。
 
徹夜明けの空は真冬の雪の中だというのに眩しくて、
粉雪の中、転ばないように、固く手を握って、並んで歩いた。
いつもと変わることない、土曜の朝の二人の日課だった。
タクシーのつかまる大通りに着き、彼女は手を上げタクシーに乗り込む。
「じゃあ、またね」
もう会わないというのに、別れの挨拶まで、いつもと同じだった。
でも、それが彼女の答えだった。
口づけひとつ交わさぬ恋はこうしてあっけなく終止符を打った。
 
 
それ以来、彼女とは一度も会っていない。
ただ、別れた後すぐに、メールが一通届いただけだった。
 
「知っていたよ、あなたの気持ち。
 すっごくうれしかった。
 でもね、あなたといると居心地がよすぎて、
 ついつい甘えてしまうの。
 だから、この関係が失うのが嫌だったから、
 気付かないふりをしてきたの。ごめんネ。
 
 でも、これで、ほんとうに終わっちゃうんだね。
 さみしい・・・。
  
 あなたには感謝してるの。
 いつも夢を語ってくれて、希望を持つ大切さを知った。
 だから、わたし、仕事も今のままじゃいけないって思えるようになったんだよ。
 
 きっと、またいつか笑顔で逢えるよね?
 また、その日まで。」
 
そのメールの最後にはこう付け加えてあった。
  
「P.S. 
 そういえば昔"さよならは別れの言葉じゃなくて 再び会うまでの遠い約束"って歌があったよね。
 仕事で成功して、あなたに胸を張って報告できるようになったそのときは、
 これまでのように、いつものあの場所で待ち合わせの約束しようね」
 
再び、僕の頭には「セーラー服と機関銃」のメロディーが流れ出していた。
 
 
  
薬師丸ひろ子といえば、大瀧詠一による名曲「探偵物語」が素晴らしい。松本隆ユーミンの「Woman」も好き。