ただひとつ
いまわの際に思い浮かべる恋は
唯一なのがよい
誰にも話せず叶わないのがよい
はかなく散った幻のがよい
足掻き苦しんだ夜が多いほどよい
美しくなくてもよい
忘れられないほどなら
それがよい
最期まで秘密にしておくのがよい
思いは届かないのがよい
死後にそっと知られるくらいがよい
満たされなかった分だけ
悲しみの深さだけ
思いが募っていたのなら
それがよい
簡単には口にできなかった
その思いの大きさが
その瞬間に自分を満たし
華を添えてくれるなら
それがよい
意味はあっただの
無意味だっただのと
考えさせないのがよい
泰然自若として騒がず
穏やかな終わりであれば
それがよい
唯一の恋なら
それでよい