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恋は愚かというけれど

「ねえ、私たちって日本で一、ニを争う仲良しカップルだね」
そんなこと突然彼女が言うから、僕はなにも言い返せないまま、続く言葉を待った。
「なにかで読んだのだけど、男は誰かを愛しぬくことで成長し、女は誰かに愛しぬかれることで成長するんだって」
「男は最初の人になりたがるし、女は最後の人になりたがるっていうからね」
 
そうだったね。昔はこうして夜遅くまでいろいろと話し合っていたね。まるで「ビフォア・サンライズ 恋人までの距離」のイーサン・ホークジュリー・デルピーみたいに。
 
とくに、二人ともラブ・ロマンス映画が好きだから、観終わったあとはいつもこんな調子だったね。
恋は人を愚かにする。
でも、愚かだからこそ、リアルで、刹那的で、いとおしい。
フランス映画の恋愛ものは大抵は愚かそのもので、エリック・ロメール監督*1作品はそれをよく描いているし、ジュリー・デルピーが監督・脚本・音楽・主演した『パリ、恋人たちの2日間』に至っては、日本人には理解しがたい領域にまで達している。
往年の名画で描かれる男女も同じようなもので、『終着駅』*2のただならぬ陳腐さは驚愕に値する。
とはいえ、漂う哀切感を一笑に付せないのは、この悲恋という甘美な美酒に陶酔する喜びを一方では求めているからであろう。
恋心はかくも人を愚かにさせ、素直になれずに天邪鬼になったり、相手や自分を傷つけずにいられなくさせたりする。それでも時折、不意に本当の思いが溢れ出て、言葉や態度に表出したとき、信じ難いほどの煌めきを放つ。

「ねえ、レン。」「ウン?」
「‥‥無理だよ、もう昔みたいにあんたとは暮らせない。あたしにも意地があるから。‥‥でもたまにこんな風に会って、抱き合ったり、お互いのこと話したりできたらいいなと思う。‥‥それでいつか、もっと歳とって、意地とか見栄とか、全部無くなって、歌うのにも疲れたら、あたしもあの家に戻ってもいい?」
映画『NANA

若さはそれだけで美しいけれど、まだその輝きをどうやって活かしてよいのか分からず、意地とか見栄とかつまらないことで大切なものを失ってしまうけれど、どうしても失ってはいけないものがあることに気付いたとき、人はようやく、素直にもなれ、謙虚にもなれ、心から感謝できるようになれる。
 
僕があなたと出会って10年目にしてようやく結婚に至ったのも、長い年月の中で潜り抜けてきた試練で流した涙の数だけ愚かさを捨て去り、自分の素直な気持ちを認められるようになれたからなんだね。
さて、今夜はなんの映画を観ようか?
 
 <追記>

言葉によってロマンスは生まれる
 ※昔書いた「ビフォア・サンライズ 恋人までの距離」のレビュー記事
好きな映画監督リスト
Billie Holiday「I'm a fool to want you」ほとんどの人は気付いたと思うけれど、題名はこの曲の邦題からの引用。

*1:ヌーヴェル・ヴァーグの巨匠

*2:イタリア・ネオレアリズモ映画の巨匠ヴィットリオ・デ・シーカ監督作品