ずっとずっと後

この一瞬を冷凍保存して、永久保存できたなら。
 
幸せの最中には不思議とそう感じていない。 
いつだって、心の底で暗躍する深い感情は、
想念として結実する手前で意識化に潜み、
その場に相応しい言葉を奪い去る。
 
ずっとずっと後になって、思い返し、
そうして、はっきりと悟るのだ。
 
あの瞬間は、永久保存版だったと。
 
 
あんなに甘えた声をあなたが出すなんて、
想像もつかなかった。
しかも、自分との関わりの中で、
あんなふうに変わるとは。
 
自分の言葉や思いが、誰かを救ったり、
敬服や心酔、それのみか恋愛感情を喚起するなどと
思いもしなかった。
 
 
レーゾン・デートゥルを見失っていたあの頃、
たしかに、あなたに必要とされた。
短くも美しいあの日々はそのまま羅針盤となり、
心にある北極星の在り処を教えてくれた。
 
見上げればいつでも、北極星はそこに在り続け、
N極の先には、あなたがいた。
永遠に続くかと思えた僅かな月日。 
失ってからその意味を虚しく知るだけ。
 
この一瞬を冷凍保存して、永久保存できたなら。
 
それが叶わぬことだと明示されて暫くは、
無明の闇が、夜空から星々も奪い去った。
宵は完全なる漆黒の始まりでしかなかった。
 
ずっとずっと後になって、我に返り、
そうして、はっきりと悟るのだ。
 
北極星は、永久に動かずに在り続けているのだと。