そのセンスに魅かれて、また恋に落ちるんだ
「ここ。ヴァイオリンがよく歌ってるでしょ」
「歌う?」
「そう。カンタービレ」
興奮しながら熱く語り、曲に合わせ
「トゥルットゥトゥルトゥ、ルー」と口ずさみながら、
エアギターならぬエアヴァイオリンをかき鳴らしまくる。
僕は狂気じみたその光景を美しく思った。
「チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲・ニ長調・作品35の第一楽章も凄いけど、
なんといってもこのシベリウスのヴァイオリン協奏曲・ニ短調・作品47が最高なの」
「どういうところが?」
「曲の構成がいいの。
まず第一楽章はアレグロ・モデラート。
フォルテの時の和音が素晴らしいの。
どうしてこんな音が思いつくのかしらと感動する。
もう作曲家に恋しちゃう。
続く第ニ楽章は一転してアダージョ・ディ・モルト。
これは泣けるし、実際聴きながらよく泣いた。
そして締めくくりの第三楽章は華やかなアレグロ、マ・ノン・タント。
辛いことなんてどうでもよくなって、パーッと明るい気分になれるの。
これを聴くとこの一年のあなたとの出来事を思い出すの。
この曲のことなら永遠に話していられるわ・・・」
誰しも好きなものを語っているときの姿は美しい。
僕が誰かに強烈に魅かれるとき。
それはその人のセンスの良さを感じたときだ。
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大嫌いだったカラオケが好きになったのは8年前。
今でも広末を好きなのは、
次に歌うのが恥ずかしくなる位、カラオケが上手い
彼女にそっくりだからだ。
そんなルックスよりも、彼女の優しさと、
彼女が描く絵や文章のセンスが好きだった。
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頻繁に詩作を重ねるようになったのは3年前。
そのほとんどはたった一人のためだけに書いた。
その人が、僕自身気付かなかった良さを見出し、
それを教えてくれたから楽しく思えた。
人は自分に関心がある人を好きになるもの。
僕のセンスを良いと言ってくれるそのセンスを好きになった。
一度好きになると、その人の好きなものを好きになっていった。
音楽ではヴォーカルものが好きで、清貴や
Skoop On Somebody、Baby Boo、RAG FAIR、クリスタル・ケイを好きになった。
文学では万葉集や伊勢物語等の古典や、辻仁成や浅田次郎、京極夏彦。
映画は邦画を愛し、alfredo BANNISTERの靴を愛した。
それらを僕は今も変わらず愛している。
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今も尚それらの絵や当時の詩を見直したり、ブログに再掲するのは、
小説を書く際に、かつての情熱を再燃させるため。
感情は変わり続けるが、言葉は変わらないからだ。
だから、今日もまた、沸き起こる言葉を選び、練り、書き残す。
時にそれを引っぱり出し、再構築する。
発せられた言葉はやがて誰かのセンスと共鳴しあい、
新たなセンスを呼び覚ます。
そのときにはきっと、
そのセンスに魅せられ、また恋に落ちるのだと思う。
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この記事はいつもよりずっと高揚とした気分で書くことができた。
理由はもちろん、BGMに合わせて
「トゥルットゥトゥルトゥ、ルー」と口ずさみながら書いたからだ。
<追伸>
この記事を書くきっかけになったのは、
「泣かないで・もうおやすみ。」
をブクマしたmike_nさんのセンスに感動したから。
僕の書きたい世界に近い創作に出会えたのは増田以来。