自分自身を愛せるようになったのは

1990年に「ニキータ」で名声を得たリュック・ベッソンは、1994年に初めてアメリカで映画製作をするにあたり、その舞台にニューヨークを選んだ。理由は様々浮かぶが、そのひとつが作品の中に見出せる。完成した作品とは、ベッソンの人気を決定づけた「レオン」である。主人公レオン(ジャン・レノ)はある名画を夢中で観ていた。その名画のあらすじは次のとおりである。


1945年。主人公テッド(ジーン・ケリー)は、戦場に行っている間に恋人が心変わりをして、他の男と結婚したという手紙を受け取る。戦友二人に慰められつつ、3人で十年後の同じ日に同じ酒場で再会を約束し、解散する。

1955年。戦友3人は約束通り姿を現したものの、互いの人生航路にあまりにもギャップが生じたために、かつてのように打ち解けるどころか、心の中で反目しあう。テッドは失恋以来10年間、傷ついた自尊心が癒えないため、一人だけ結婚もせずにheelな人生を歩んでいた。そんな自分への嫌悪感が原因で、せっかく再会した戦友にも心を開けず、恋愛だけではなく、友情もまた虚しいものかと落胆した。しかし、その再会の場で、聡明で美しいテレビ番組の演出家ジャッキー(シド・シャリース)と運命的に出逢う。テッドの口説きに対しジャッキーは、これまで他の男にもそうしていたようにテッドにも、つれない素振りだった。しかし、互いの心の内にある孤独を言い当て、次第に魅かれあってゆく・・・。心に鍵をかけ、誰も自分の心に受け入れることがなく孤独に生きてきた二人が、少しずつ心の鎧を脱ぎ捨て、ついに二人は愛を確認し合う。映画の後半、テッドが喜びに満ち、かつてのような明るさを取り戻したのは、愛する女性からの無条件の愛を確信したからである。
ニューヨークの街をローラースケートを履き、歌い踊りながら喜びを体全体で表現するテッド。曲は、彼の心境そのままの歌詞が聴く者に感動を呼ぶ「I Like Myself」。
http://youtube.com/watch?v=BdPaWdWdxis&fmt=22
あまりにも有名なこのシーン*1を、名画座で陶然として眺めるレオン。大都会ニューヨークの片隅で孤独に暮らしていた凄腕のスナイパーの冷血な心を溶かしたのは、同じく孤独に生きていた12歳の少女マチルダ(ナタリー・ポートマン)だった・・・。


出逢いが、人生を変える。
愛が、心を動かす。


アメリカで映画を撮るからには、ロマンティックな幸福感溢れる名画を作ったジーン・ケリーへのオマージュを捧げたい。ベッソンのそうした敬愛が、同じニューヨークを舞台にした名作「レオン」を産み出したと考えるのはまんざら的外れではないと思う。


出逢いが、人生を変える。
愛が、心を動かす。


ぼくもまた、それを経験から知り、信じている。
今の幸せ、心の平安は、かつての艱難辛苦と愛の軌跡の末に得たものだ。
諦めていたことすら忘れていたささやかな願いの多くは、案外叶えられているものだ。


あのときのときめきを、感謝を、流した涙をいつまでも覚えていたい。
忘れたくはない。
歌い踊りたくなるほど、いつも喜び溢れていたい。
取り囲む環境や状況が変わろうとも、この気持ちを失わずにいられたなら、なんと素敵なことだろう。

*1:映画「It's Always Fair Weather(邦題:いつも上天気)」。3年前に「雨に唄えば」で大成功を収めた製作チームによるMGMミュージカル映画の傑作。1955年11月公開。監督:ジーン・ケリーとスタンリー・ドーネン/製作:アーサー・フリード。音楽:アンドレ・プレヴィン/脚色及び主題歌作詞:アドルフ・グリーンとベティ・カムデン