Un ange passe.
賑やかな中にも一瞬、偶然に話し声や音楽などの一切が途切れ、瞬時の静寂が訪れる間。
「天使が通った」
フランスに於ける日常的な言い回しだ。
一瞬水を打ったように静まりかえるのは、神の御使いが、何かを告げるために人々の語らいを阻み、沈黙させたため。
息を潜めて天使の存在を感じ取る。沈黙は繊細さと優しさに溢れ、崇高な高揚感を互いに共有させる。
程なく、何事も無かったかのように誰言うとなく会話の口火を切り、再び、安楽な境地へと誘(いざな)うのだ。
沈黙の美学を興ずるのはなにも仏蘭西だけではない。
手塚治虫が描いた"語らない"漢(をとこ)の美学は僕の理想形のひとつである。以下のシーンは忘れ難い。
「きみが好きだ。
心から愛している!」
「やっと
言ってくださったのね…
嬉しい!!」
「どうしても
言えなかった・・・・・・・」
「先生
キスして!
お願い」
「手術が終わったら
この気持ちも
かき消えてしまうのね」
「いや
そうじゃない。
この瞬間は
永遠なんだ」
―「The Encounter めぐり会い : BLACK JACK」
※2007/05/02 16:41初出<関連記事>