True love never runs smooth
ウィリアム・シェイクスピア「真夏の夜の夢」の有名な一節“The course of true love did run smooth. (とかく恋路はままならぬ)”をもじったと思われる「True love never runs smooth(邦題:恋は異なもの)」という曲は、1963年にジーン・ピットニーによってビルボード最高位21位のスマッシュ・ヒットを記録した、バート・バカラックの名曲である。
いまだにDVD化されていない1997年の月9ドラマ『ラブジェネレーション』を先日初めて再放送で観た時、頻出する真っ青なバックの看板・ポスターにあるキャッチコピー「True love never runs smooth」にピンときて、調べてみたところ、やはりバカラックの曲からの引用だった。
しかも、主題歌の発注を受けた大瀧詠一が「お互いに惹かれあっているのに、内なる気持ちを、素直に好きと言い表せないことが恋の障害」というドラマのコンセプトから「True love never runs smoothみたいな感じの曲をイメージした」と語ったのをそのまま採用したとのこと。*1たしかに主人公のふたりのすれ違いの連続は、真の恋の道筋が決して平坦ではないことを体現していた。だからこそ観る者は一層、「幸せな結末」の歌詞に希望と慰めを与えられ、感動を呼んだ。*2最終回では勿論、運命の赤い糸で結ばれたふたりは、幸せな結末を迎える。
http://youtube.com/watch?v=WgFlf9LPdGY
とはいえ、(中盤以降は泣き通しで「こんな切ない展開観た事ない」と絶賛していたのだが)、あまりに棚ぼたなハッピーエンドで迎えた大団円に拍子抜けしてしまった。これはテレビの視聴者が求めるファンタジーであって、リアリティを求めてはいけないのだろう。
なぜラブジェネの中盤が感動的であったかといえば、ひとえに松たかこ演じる理子の「情熱的な想い」に尽きる。彼女の涙に僕は何度も、「切ない」という言葉には「つらくやるせない」だけではなく、「深く心を寄せている」という意味もあるということを思い出させてくれた。木村拓哉演じる哲平の仕事熱心さも、この切なさを倍増させるための設定であるようさえ思える。おそらく公開当時はツンデレという概念すら存在していなかったと思うが、理子は紛れもないツンデレキャラの最高峰だ。会っている間は「半径2メートル!」など憎まれ口ばかりなのに、“ひとりでいるとき、どれほど自分のことを想っていてくれているのか”を垣間見る思いがしたとき、人は恋に落ちるのではないだろうか。その意味で、理子のマジックは最高級のプレゼンテーションだ。想いの強さは千通のメールよりも伝わることだろう。
そして、このドラマの重要な鍵は“愛の深さと不安が比例する”心理だ。恋人に浮気された経験がある人ならこの気持ちは分かるだろう。“大好きでしかたないのに、信じたくても信じれない自分が嫌いになったから、別れる”シークエンスに、幾度となく滂沱の涙を流した。愛しているなら信頼していたいのにできない。それがどれほど苦渋に満ちたことなのか。それを知る者なら、いつか失い傷つくのではないかという恐怖と、それでもどうしても諦めたくない自分の想いの強さの狭間で、苦しくて苦しくて、ただ堪え切れずに涙が後から後から零れ落ちるのを拭うだけの毎日から解放されるために別れを決断する悲しみはいかばかりか分かるだろう。11年前ではなく、あれこれ潜り抜けてきた今、このドラマを観ることに大いに意義を感じる。「とかく恋路はままならぬ」。だからこそ、恋する切なさは美しい。

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*1:驚いたのはそれだけではない。ポスター(デザインは信藤三雄)のモデル、市川実和子は後に「Pinup Girl」というアルバムを出したが、大瀧詠一がサウンド・プロデュースを担当し、「ポップスター」「雨のマルセイユ」の2曲を提供している。きっかけは、市川が「あの主題歌歌ってる大瀧さんっていいですね。私のデビュー曲書いてもらえないですか?」って言ったところ、本当に交渉して実現したらしい。どれほど長い間、ナイアガラ信者が彼の新作発売を待望していることか。それをあっさりと・・・。知らないとはなんとすごいことだろう。
*2:余談だが、「幸せな結末」のイントロのオルガンとピアノの1小節ずつのメドレー部分で「True love never runs smooth」のフレーズを引用している。また、前奏のエレキギターのパートはデイブ・クラーク・ファイブ「HURTING INSIDE 」の前奏を引用している。